読売新聞に掲載されました

読売新聞(九州版)に藤木の活動に関する記事が掲載されました。

以下、平成29年6月26日(月)付 読売新聞より転載

 

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面前DV こころの痛手 成人後も

経験者「物音、毎日ビクビク」

警察から児童相談所への通告が急増している「面前DV(ドメスティック・バイオレンス)」。幼い頃に心に傷を負った人は、様々な困難と向き合いながら、周囲に支えられて、懸命に立ち上がろうとしている。(後田ひろえ、写真も、本文記事一面)

 

■死ばかり考え

「物音にもビクビクしていた毎日。死ぬことしか考えていませんでした」

 福岡県内に住む会社員女性(32)は、物心ついた時から、父の母に対する暴力におびえ続けていた。

会社員だった父は、毎日のようにパチンコに行き、負けると酒を飲んで暴れた。「貴様!」とどなり声を上げて母を殴ったり、食器を投げて割ったりした。母はされるがままで、幼かった女性は自室で布団に潜り込んで、じっと耐えていた。近くの祖父母の家へ母とともに避難したこともあり、ランドセルだけを持って自宅を飛び出したことや、母の手が震えていたことは今も覚えている。

女性は、父の暴力が始まると、パニックに襲われて呼吸が困難になった。物音に敏感になり、中学生の頃、トラックのクラクションを耳にして、その場に倒れ込んだ。食器をテーブルに置く音にもおびえた。

学校の同級生らと友人関係を築くのが苦手で、趣味や好きな食べ物を聞かれても答えることができなかった。生きることに楽しさを見いだせず、「いつ死のうか」と、そんなことばかり考えていた。

 

■対処法を習得

 約3年前、勤務先の同僚に誘われて、困難を抱えた女性らの自立を支援する一般社団法人「WANA関西」(大阪市)の講演会に足を運んだ。代表理事の藤木美奈子さんは、幼少期にDVを目撃することがトラウマとなり、生きづらさにつながることを伝えていた。「私のことだ」。会場で配られたアンケート用紙に、それまで胸の奥にしまい込んでいた思いの丈をつづった。

 講演会がきっかけになり、藤木さんの支援を受け、困難に直面したときの対処法などを身につけるプログラムに取り組んだ。今は実家を出ており、同僚や友人とも良好な関係を作ろうと意識するようになった。物音に反応しても、「大丈夫」と自らに言い聞かせることで、パニックに陥ることはなくなった。

 「DVを目撃した子供が心にどれだけ深刻な傷を負うのか、多くの人に気づいてほしい」。女性はそう訴える。

 

対人関係築く力に影響

 米ハーバード大と共同で、面前DVが脳に与える影響を研究していた「福井大子どものこころの発達研究センター」の友田明美教授(小児発達学)によると、幼少期に親同士のDVを目撃し続けた人は、脳の視覚野が小さくなる傾向にあるという。

 外部からのストレスに耐えられるよう、脳が視覚を通した情報量を減らそうとすることが原因とみられ、その影響で、面前DVの被害者は、他人の表情を理解しづらくなり、対人関係がうまくいかなくなるなどの課題を抱えやすくなるという。

 友田教授は「面前DVの被害にさらされている子供たちに社会全体で目を向けて、支援機関につなごうと努力することが大切だ」と強調する。

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