刺青、お断り?


ひさびさに母と、近所のお風呂屋さんに行った。
大きな湯船に手足を伸ばすと、その先に女性がいる。
彼女の背中のすべてを埋め尽くす立派な刺青が目に入った。
母親が私に耳打ちする。
「このお風呂屋さんは、あんな刺青してて入ってもかまわんの?」
私はあきれた。ここをどこやと思てるの。
「この町でそんなこというてたら、商売できるかいな」

昼間はヤクザ屋さんの親分が夫婦でよく入浴に来ているようで、風呂屋の前ででっかい黒塗りの車が止まり、スーツ姿の若い衆が待機する姿をよくみかける。
子どもも年寄りも慣れっこで、誰も文句言わないのがこの町。
まさに共生社会である。
もともと自分が生まれたということもあるが、そんな懐の広さが好きで、この町に暮らしている。

先日、テレビ番組で、ある町の住民たちが、新しく建設が決まった「更生施設」に対する反対集会を開いている報道がされていた。ある若い母親は、
「小学校が近くにあるんです。子どもに何かあったらどうするんですか!」
とマイクを持って叫んでいた。
世間知らずのお嬢さん、そういう姿勢と考え方が、弱者を排除し、さらなる犯罪に追い込むんやで。本当に治安を望むなら、彼らを温かく受け入れることや。

さて、お風呂屋。
くだんの女性、風呂場と脱衣場の出入りではたいへん礼儀正しく、必ず人を先に通してから自分が入っている。
その姿を見て、わが母はまた驚いている。
「えらい丁寧な人やな」
「やろ? 見かけで人を判断したらアカンで」
今日も私は共生教育をしている。